2025年1月に実施された大学3年生および大学院生を対象とした調査によると、「1つの会社に定年まで勤めたい」と考える学生の割合が52.4%に達し、10年ぶりに半数を超えました。一方で、「転職などでキャリアアップを図りたい」と答えた学生の割合は32.6%にとどまり、前年から10ポイント以上減少しました。これは、新卒の給与水準の上昇や企業による待遇改善が影響している可能性があります。
賃上げ影響? 「定年まで勤めたい」と望む学生が10年ぶりに半数超 就活リサーチ – 産経ニュース
企業の賃上げと新卒初任給の上昇
株式会社帝国データバンクが実施した「新卒社員の初任給」に関するアンケートでは、2025年4月入社の新卒社員に対し、前年度より初任給を引き上げる企業の割合が71.0%に達しました。これは人材確保、物価上昇、最低賃金引き上げなどの影響を受けた結果です。平均の引き上げ額は9,114円であり、「20~25万円未満」の初任給を支給する企業が最も多い一方で、「20万円未満」の割合は減少しています。
また、個別の企業を見ても、初任給の大幅な引き上げが見られます。例えば、ファーストリテイリング(ユニクロ運営会社)は2025年3月入社の新卒社員の初任給を3万円増額し、33万円としました。さらに、年収も1割増の500万円超とし、グローバル基準の優秀な人材確保を目指しています。金融業界でも、明治安田生命保険が2025年4月入社の初任給を33.2万円(全国転勤あり、固定残業代込み)とし、4万7千人の社員を対象に平均5%の賃上げを実施する予定です。さらに、東京海上日動火災保険は2026年4月に転勤・転居を伴う大卒初任給を最大約41万円に引き上げる方針を示しました。
こうした動きは、新卒者にとって安定した収入と充実した福利厚生を期待させ、転職リスクを取るよりも長期間同じ企業で働くことを望む傾向を強めています。
企業の「若手優遇」と中高年層の現実
一方で、中高年社員の待遇は依然として大きく改善されていないのが現実です。特に、50歳以上の社員に対しては早期退職の募集が増加しており、企業は「人件費削減」と「組織の若返り」を進めています。40代・50代の世代は、就職氷河期やバブル崩壊、「失われた30年」といわれる低成長時代を経験しており、昇給のスピードも緩やかでした。そのため、月額30万円を超えるまでに一定程度年月を要した人も多く、新卒の初任給が30万円以上になることに対して複雑な感情を抱く人も少なくありません。
高齢者の就労と企業の対応
政府は「働き方改革」の一環として、高齢者の就労を促進し、「生涯現役社会」の実現を目指しています。これは年金制度の維持や労働力不足の解消にも寄与するものですが、企業にとっては必ずしも歓迎される変化ではありません。高齢社員を雇い続けることは人件費の増加や組織の新陳代謝の鈍化につながるため、多くの企業は定年後の再雇用において給与を大幅に下げる、または契約社員として短期間だけ雇うといった対応を取っています。
しかし、日本社会全体としては、高齢者の労働参加は今後さらに増えると考えられます。問題は、再雇用の受け皿となる企業が十分にあるのか、またその給与水準が生活を支えるのに十分かどうかという点です。現在の年金制度では、老後の生活費を補うために多くの人が働き続ける必要があり、70歳、80歳になっても雇用先を一定数選べる環境が求められています。
起業支援と資格取得の重要性
すべての高齢者が企業の中で「生涯現役」を保証されるわけではありません。そのため、政府には企業の雇用に頼らずに働き続けられる仕組みとして「起業支援」の強化が求められます。例えば、シニア向けの創業支援制度や、小規模事業を立ち上げるための補助金制度を充実させることが有効でしょう。こうした施策により、定年後の働き方の選択肢が増え、企業の再雇用に依存しない道が開けるはずです。
また、個人としても、今のうちから将来を見据えた準備が必要です。特に、AIやデジタルスキル、介護・福祉関連の資格は今後の社会で需要が高まる分野です。早いうちから学び続ける姿勢を持ち、どのような働き方にも対応できるよう備えることが重要になります。
まとめ
現在、新卒者に対する企業の待遇は向上し、安定した職場環境が整いつつあります。そのため、定年まで1つの企業に勤めたいと考える学生が増えているのは自然な流れです。しかし、中高年層にとっては厳しい現実が残っており、企業の雇用形態の変化に対応するためには、政府による起業支援や新たな働き方の模索が不可欠です。
企業がすべての人に生涯現役の道を保証することは現実的に難しいため、私たち自身も将来を見据えてスキルを磨き、柔軟な働き方に対応できる準備を進める必要があります。定年後の20年、30年を充実したものにするために、今からできることを考え、行動していくことが求められています。