増加する# 「熟年離婚」──背景と老後資産への影響は?

近年、「熟年離婚」と呼ばれる、結婚生活20年以上を経た夫婦の離婚が急増しています。厚生労働省の統計によると、2023年の離婚件数は約18万3800組。そのうち、同居期間20年以上の夫婦の離婚は3万9812組に達し、全体の約21.7%を占める過去最高の数字となりました。この割合は、1985年の統計と比較すると約2倍に増えており、熟年離婚が一種の社会現象となっていることがわかります。

熟年離婚の割合とその傾向
2023年の離婚件数全体のうち、結婚20年以上の夫婦の離婚は21.7%、さらに15年以上までを含めると32.2%に達します。これは、結婚5年未満の離婚(28.7%)とほぼ同等であり、かつて若年層に多かった離婚が、今や中高年層にも広がっていることを示しています。
特に注目すべきは、離婚「件数」ではなく「率」で見た場合の増加傾向です。これは、単に件数が増えているというよりも、結婚生活が長い夫婦の間でも離婚が現実的な選択肢となってきていることを意味します。

熟年離婚が増える理由とは?
熟年離婚の主な原因としては、性格の不一致、浮気、モラルハラスメント、経済的問題などが挙げられます。特に子育てが終わったあと、夫婦の関係性に改めて向き合ったとき、相手に対する愛情がすでに冷めているといったケースが多いようです。
内閣府の世論調査では、「未成年の子がいない夫婦の場合、一方が離婚を望んでいるなら離婚すべき」と考える人の割合は42.4%に上り、子どもがいる場合(22.7%)よりも高い結果となっています。子どもの自立が離婚の心理的ハードルを下げる一因であることがわかります。
また、東レ経営研究所の「女性の愛情曲線」調査では、出産後、夫と共に育児を行った妻の愛情は回復傾向にありますが、ひとりで育児を担った妻の愛情は低迷する傾向が強いとされています。このように、育児期のパートナーシップの在り方が、将来の夫婦関係に大きな影響を及ぼしているのです。

離婚が老後に与える経済的影響
熟年離婚の際、特に注意が必要なのが年金分割財産分与です。婚姻期間中、専業主婦などとして国民年金第3号被保険者だった妻は、夫の厚生年金の一部を「3号分割制度」によって請求できます。これは平成19年4月以降の婚姻期間に限られますが、夫の年金の最大半額まで受け取ることが可能です。

さらに、夫婦ともに厚生年金に加入していた場合には、「合意分割制度」によって、婚姻期間中の標準報酬をお互いの合意、または裁判で決定した割合で分割することができます。これらの請求は、離婚した日の翌日から2年以内に行う必要があります。

また、退職金も財産分与の対象です。退職金は給与の後払いという性質があり、婚姻期間中に発生した部分については共有財産とみなされるため、分割の対象になります。たとえば、「退職金総額×婚姻期間÷勤続年数」で算出される金額が、2分の1ずつ分けられるケースが一般的です。

持ち家や貯金、金融資産なども同様に分与対象となるため、離婚後に一気に生活基盤が変わるリスクがあるのです。

離婚による資産変動のシミュレーション
仮に、以下のような条件の夫婦が離婚した場合を考えてみましょう。

  • 夫の厚生年金:月額20万円
  • 退職金:1000万円
  • 夫婦の貯蓄:1000万円

離婚によって、年金は10万円に、退職金は500万円、貯蓄も500万円に半減する可能性があります。これにより、老後の生活設計が大きく崩れることもあり、場合によっては生活保護の対象となるリスクすら否定できません。

まとめとして熟年離婚に備えるには?
熟年離婚を防ぎ、老後の資産を守るには、40〜50代から夫婦関係を見直し、改善に努めることが重要です。定年退職という人生の転機を前に、妻から突然離婚を切り出されるケースも珍しくありません。「夫婦で築いた財産は平等に分ける」という原則のもと、離婚による経済的ダメージは想像以上に大きくなるのです。
夫婦関係の維持・改善は、感情面だけでなく経済面から見ても「資産保護」の一環と言えるでしょう。普段からコミュニケーションを取り合い、老後のライフプランについて夫婦で話し合うことが、将来的なリスクを回避する鍵となります。

出典
厚生労働省 令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況:gaikyouR5.pdf 
日本年金機構 離婚時の年金分割:離婚時の年金分割|日本年金機構

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