私は現在60代半ば。幸い持病もなく、体調も特に問題はありません。それでも、毎年2月には遺言書を更新しています。理由は二つあります。一つは、資産の棚卸しをしておくことで、将来的な家族間のトラブルを防ぐため。もう一つは、将来的な認知症リスクへの備えです。
実際、厚生労働省の統計では、65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されています。判断力があるうちに、自分の意思をきちんと残しておくことが、何よりも家族のためになる――そう実感しています。
では、皆さんの周囲で、50代や60代で遺言書を作成している方はどれくらいいるでしょうか?
ある調査によると、実際に遺言書を作成している人の割合は次の通りです。
・50代:5.7%
・60代:6.6%
・70代前半:8.5%
・75歳以上:13.0%
年齢が上がるほど少しずつ増えますが、「人生100年時代」を迎えている割には、まだまだ少ない印象ではないでしょうか。
50代は、人生の後半戦に向けた現実的な準備を始めるタイミングです。仕事も家庭も一段落しつつある中で、これからの暮らし方や家族との関係、自身の終活について思いを巡らせる機会が増える時期です。
だからこそ「まだ早い」と思う今こそが、遺言書を作成する絶好のタイミングだと思います。
遺言書は「もしも」の備えだけではない
遺言書というと、「亡くなったときのための書類」と思われがちですが、それだけではありません。
遺言書は、自分の考えや希望を“明文化”することで、家族や大切な人たちに余計な負担をかけないための「思いやりのツール」でもあります。
特に50代以降は、家族構成や財産状況がある程度固まってくる時期です。
この段階で遺言書を作成しておけば、将来、家族が財産をどう分ければいいのか困ることも少なくなり、親族間のトラブルを未然に防ぐことができます。
私自身の経験で恐縮ですが、2022年3月、福岡家庭裁判所から突然「遺産分割調停申立書」が届きました。被相続人はなんと1972年に亡くなった私の母方の親族。遺言書がなかったため、法定相続人が代襲相続や再婚、養子縁組などで膨れ上がり、なんと37名にのぼっていました。
私はすでに財産放棄をしていたにも関わらず、調停は難航し、2024年5月時点でも合意には至らず。最終的には2025年の裁判へと持ち込まれる予定です。
このようなケースは極端かもしれませんが、遺言書の有無がいかに重要かを痛感した出来事でした。
遺言書は老後資金の「見える化」にもつながる
遺言書を作る過程で、あらためて自分の資産や家族との関係を見つめ直すことになります。これが老後資金の「可視化」につながり、これからの人生設計を立て直すきっかけにもなります。
たとえば、「誰に何をどれだけ残すか」「孫に教育資金を贈るか」「社会貢献として寄付をするか」など、様々な選択肢が見えてきます。
また、遺言書は相続税対策の第一歩にもなります。生前贈与や保険を活用した節税策なども、50代から始めることで大きな効果が期待できます。
難しく考えすぎないで。まずは書いてみることから
「遺言書」というと専門的で難しそうに感じるかもしれませんが、基本的には自分の意思を文書にすればOKです。法的効力を確実にするためには、公証役場で作成する「公正証書遺言」が安心です。費用はかかりますが、内容の不備がないようサポートしてもらえるのが大きな利点です。
さらに、親御さんが健在な場合は、「自分たちは作ろうと考えているので相談にのって?」と自然な形で話を持ちかけるのもおすすめです。自分自身の準備を通じて、親世代にも遺言書の大切さを伝えることができるからです。
遺言書を作るということは、「死の準備」ではなく「生き方の整理」です。
50代、60代だからこそ、人生の棚卸しを行い、自分らしいセカンドライフを形にしていく。
その第一歩として、ぜひ「遺言書を作ってみる」という行動を起こしてみませんか。
それは、あなた自身だけでなく、あなたの大切な人たちを守る行動でもあるのです。