少子高齢化が進む日本では、空き家や使われなくなった店舗が全国で増え続けています。総務省の調査によると、全国の空き家はおよそ900万戸にのぼり、実に7戸に1戸が空き家という時代です。これらの不動産を「負動産」として処分に困るのではなく、「活きた資産」として再生・活用する動きが注目されています。特に、退職後のシニアの方や副業志向のビジネスパーソンが、自分の持つ不動産を活かして小さく起業するケースが増えています。
不動産を活かした起業には、大きく分けて四つの方向性があります。第一は、空き家再生による地域貢献型ビジネスです。古民家をリノベーションしてカフェやゲストハウスに転用したり、地域の交流拠点として活用したりする事例が各地で生まれています。たとえば、地方出身者が実家の空き家を改装し、移住希望者やワーケーション利用者に貸し出すといった形です。これにより、地域の人口減少対策にも貢献することができます。初期投資を抑えるために、クラウドファンディングや自治体の空き家補助金を活用するケースも多く見られます。
第二は、賃貸・サブリースを通じた安定収益型ビジネスです。不動産を貸し出すことで家賃収入を得るのは古典的な手法ですが、近年では単なる賃貸経営から「コンセプト賃貸」への転換が進んでいます。たとえば、ペット共生型、SOHO(住居兼事務所)型、子育てシェアハウスなど、入居者のライフスタイルに合わせたテーマ性のある賃貸物件が人気を集めています。こうした差別化戦略によって、築年数が古い物件でも十分に収益化できる可能性があります。
第三は、民泊・短期滞在型ビジネスです。観光地や都市部では、空き家や空室を活用した民泊が依然として高い需要を持っています。特にインバウンド回復の流れの中で、地域体験型の宿泊施設や、長期滞在向けの「セカンドホーム型民泊」が注目されています。法規制への対応や運営管理の手間はありますが、代行サービスを活用すれば参入ハードルは下がります。副業として民泊を運営することも、現実的な選択肢になりつつあります。
そして第四は、店舗シェア・コワーキングなどの空間活用ビジネスです。自宅の一部や使われていない店舗を、日替わりカフェや個人起業家向けのシェアスペースとして貸し出すモデルです。たとえば、平日はハンドメイド作家の展示販売、週末は地域のイベント会場として開放するなど、多様な使い方が可能です。特に自由が丘や鎌倉、京都のように人の流れがある街では、こうした「一日店長」や「週末起業」の拠点として人気を集めています。
これらの不動産活用ビジネスの魅力は、規模の大小を自由に設計できることにあります。たとえば、退職後に自宅の一室を貸して月3万円の家賃収入を得るのも立派な起業ですし、古民家を再生して地域の観光拠点にするのも同じ「不動産×起業」の形です。大切なのは、自分のライフスタイルと価値観に合った活用方法を選ぶことです。無理に大きな投資をせず、「小さく始めて育てていく」ことが、持続可能な起業の鍵になります。
さらに、近年は社会貢献型の不動産ビジネスにも注目が集まっています。たとえば、高齢者や障がい者、シングルマザーなど、住宅確保に困る人々に低家賃で住まいを提供し、地域で支え合う仕組みをつくる取り組みです。また、学生や若手起業家に安価でワークスペースを提供することで、地域の新しいビジネスを生み出す動きも見られます。単なる利回りだけではなく、「社会に還元する不動産活用」という新しい価値観が広がっています。
不動産は「持っているだけでは負担になる資産」ですが、「活かし方を変えれば収益と社会貢献を両立できる資産」に変わります。特にセカンドライフを迎える世代にとって、不動産を通じた起業は、自身の経験や地域とのつながりを再構築する絶好のチャンスになります。たとえば、空き家を地域のコミュニティカフェとして再生し、自分が店主となって人と人をつなぐ。または、実家の土地に小さな貸しスペースを設け、地域の起業家に貸す。そこには「収益」だけでなく、「生きがい」や「社会との接点」という、もう一つのリターンがあります。
人生100年時代を迎えた今、資産をどう使うかがこれからの生き方を大きく左右します。
「不動産×起業」は、単なるお金儲けではなく、地域と共に生きる新しい働き方の選択肢です。使われていない不動産を社会の資源に変える――その第一歩を踏み出す人こそ、これからの時代の「静かな起業家」と言えるでしょう。