退職金は、日本の企業文化の一環として長い間大切にされてきましたが、ここ20年で約1,000万円もの減少が見られます。厚生労働省が毎年発表している「就労条件総合調査」によると、1997年には退職金の平均支給額が2,871万円でしたが、2023年には1,896万円にまで減少しています。その差は975万円にもなります。
この調査は、「大卒以上」「管理・事務・技術職」「定年退職」「勤続20年以上」「45歳以上」という条件を満たす退職者に対する平均退職金の支給額を示しています。特に、2023年のデータでは、退職金の減少が顕著であり、退職給付制度を導入していない企業が24.8%に上ることから、今後さらに退職金額が減少する可能性があると危惧されています。
なぜ退職金が減少しているのか?
退職金の減少にはいくつかの要因があります。まず、企業の退職金に対する「文化」が変わりつつある点が挙げられます。かつては、長期間勤務すれば退職金が多く支給される仕組みが主流でしたが、近年は成果主義を取り入れる企業が増えており、役職や業績に応じた支給が一般的になってきています。この成果主義的な考え方により、企業側は退職金の金額を調整しやすくなっています。
さらに、長期的な経済不況の影響で、退職金制度そのものを廃止したり、制度を縮小する企業も増えています。特に「自己都合退職」の場合、勤続年数に関わらず退職金が減額されるケースも多く見受けられます。
このように、退職金の減少には企業の業績悪化、成果主義の導入、退職金制度そのものの廃止など、複数の要因が影響しています。
退職金制度の現状とリスク
法律上、企業には必ずしも退職金を支払う義務はありません。退職金制度を導入していない企業も増加していますが、一方で、退職金規定を作成した場合、その内容に基づき支払い義務が生じます。そのため、退職金制度が存在する企業であれば、就業規則や総務部門に詳細を確認することが大切です。
また、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(日本FP協会)の調査によると、50代でも自分が受け取る退職金額を「把握している」と答えた人は60.2%にとどまり、約4割の人が退職金の具体的な金額を把握していない状況です。退職金の減少が進む中、自分の老後資金を正確に把握しておかないと、将来的な生活設計に大きな支障をきたす可能性があります。
高卒者や自己都合退職者の退職金は?
学歴や職種によっても、退職金の支給額には大きな差があります。たとえば、2023年のデータによれば、定年退職を迎えた高卒者の場合、管理・事務・技術職に就いていた人の平均退職金額は1,396万円、生産・販売業務に従事する現業職では1,155万円です。これに対して、大卒以上の定年退職者は前述のように1,896万円です。
一方で、早期退職者に対する優遇退職金は、平均で2,182万円と、定年退職者よりも高い金額が支給される傾向にあります。
退 職金制度を把握して老後資金計画を立てる重要性
現代の日本では、退職金や年金制度に頼ることが難しくなってきており、特に若い世代では「国や企業の都合で制度が変わる可能性がある」と考える人が増えています。こうした状況下で、退職金の有無や金額を把握することは、老後の資金計画を立てるうえで不可欠です。
企業の退職金制度があるかどうか、また、いくらもらえるのかを早めに確認し、老後に必要な蓄えを見据えたライフプランを立てておくことが重要です。特に、人生100年時代を迎えた今、長寿リスクに備えるためにも、退職金だけに頼らず、自分自身のスキルや経験を活かした生涯現役の働き方を模索する必要があると思います。
マイクロ起業コンシェルジュでは15年間の老後資金の試算表を作成しています。副業・兼業としての活動を通じて、退職後も収入を得る手段を持っておくことは、老後の不安を軽減する一つの方法だと思われ、こうした選択肢を考慮に入れたライフプランを早めに立てることが、豊かなセカンドライフを送るための鍵になるのだと思います。
今コラムは、硬軟交えて3~4分で読んで頂けるよう心がけています。 スペースの関係上、「定年延長が退職金に与える要因」などを、次回以降でご紹介できればと考えています。
出典:厚生労働省公表「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」
日本FP協会「世代別比較 くらしとお金に関する調査2018」