# 「2000万円問題」に潜む見落とし――老後に増す社会保障費の負担

「老後資金2000万円問題」が話題になってからしばらく経ちました。この問題の根拠となった試算は、平均的な年金受給額と平均的な高齢者の生活費の差額、約5万円の赤字を月々積み重ねると、退職後30年間で約2000万円の不足が生じる、というものでした。しかし、この試算には、実は重要な要素が含まれていないのです。それが「社会保障費の自己負担分」です。

多くの人は、「年金を受け取り始めたら、あまり所得税、保険料はかからない」と思いがちですが、実際は定年後も社会保障料の負担は続きます。たとえば年金受給者であっても、介護保険料や後期高齢者医療保険料が年金から天引きされます。さらに所得税や住民税も差し引かれるため、実際に手元に残る年金額は、通知されている金額より10~15%少なくなると考えておくべきです。

これまで現役時代には、会社が保険料の半分を負担してくれたり、給料から自動的に天引きされたりしていたため、社会保障料の負担感は見えにくいものでした。しかし、退職後は自分で納める形になり、収入に占める割合が大きくなります。そのうえ、高齢化の進展に伴い、介護保険料や医療保険料の水準も年々上昇しているのが現状です。

たとえば、介護保険料の全国平均は、2000年の制度開始時は月額2911円でしたが、2024年には6000円を超える自治体も多くなっています。また、後期高齢者医療保険料も、収入に応じて高額になる場合があります。特に公的年金等控除が縮小されて以降、年金収入だけでも課税対象となるケースが増えており、住民税や所得税の負担も無視できません。

さらに見落とされがちなのが、「国民健康保険料」です。会社員としての社会健康保険を外れた後、自営業や無職の人が加入するこの保険料は、地域によって差が大きく、かつ年々値上がりしています。たとえば年収200万円前後の高齢世帯でも、年間20万円以上の負担になることもあります。 しかも昭和期の月額100円台から平成初期までに約13,000円と年々上昇しています。

国民年金(老齢基礎年金)保険料の推移(昭和〜平成)
日本年金機構および厚生労働省の資料によると、国民年金制度創設時(昭和36年4月)からこれまでの定額保険料(月額)は以下のように推移しています。

実施時期月額(円)
昭和36年4月〜41年12月100(35歳未満)/150(35歳以上)
昭和44年1月〜約200〜300円
昭和45年7月〜約450円
昭和47年7月〜約550円
昭和49年1月〜約900円
昭和50年1月〜約1,100円
昭和51年4月〜約1,400円
昭和52年4月〜約2,200円
昭和53年4月〜約2,730円
昭和54年〜58年約3,300〜5,830円
昭和59年4月〜約6,220円
昭和60年4月〜約6,740円
昭和61〜63年7,100〜7,700円
平成元年4月〜8,000円
平成2年4月〜8,400円
平成3年4月〜9,000円
平成4年4月〜9,700円
平成5年4月〜10,500円
平成6年4月〜11,100円
平成7年4月〜11,700円
平成8年4月〜12,300円
平成9年4月〜12,800円
平成10年4月〜13,300円

最近の動向:令和期の年金保険料
令和に入ってからも年々増加傾向が続き、令和7年度には月額17,510円まで引き上げられました。
保険料は年度(4月1日〜翌年3月)単位で改定され、毎年4月に新額が適用されます。

令和5年度(2023年4月〜2024年3月):月額16,520円
令和6年度(2024年4月〜2025年3月):月額16,980円
令和7年度(2025年4月〜2026年3月):月額17,510円(付加保険料400円は別途)

増加要因・制度背景
・平成16年の制度改正では、平成29年度まで年280円ずつ保険料を引き上げる計画がありました。
・その後、保険料引上げの一時凍結や制度再計算を経て、消費者物価や財政状況を踏まえて変更されてきました。

年金自体も、物価や賃金の変動に応じて調整される「マクロ経済スライド」が適用されており、実質的には年々目減りしている状態です。つまり、「年金があるから安心」とは、決して言えない時代になっているのです。

こうした背景から、老後の生活資金をシミュレーションする際には、年金支給額をそのまま使うのではなく、社会保障料や税金を差し引いた「実質手取り額」で見積もることが重要です。つまり、年金定期便を参考にするときは、そこから10〜15%引いた額と物価上昇率を考慮して計算するべきなのです。

そこで、老後の資金対策として重要になるのが、「少しでも長く働き続ける」選択肢です。完全なフルタイム勤務でなくても、パートタイムや在宅ワークなどでの小規模起業で、月数万円でも収入を得られれば、社会保障料の負担を和らげることができます。働くことで社会との接点を持ち、心身の健康にもつながるというメリットもあります。

個人事業主は国民健康保険にしか加入できませんので、わたしは合わせて法人を設立し小売業とコンサル業を営んでいます。 法人で社会保険に加入し家内を扶養していますが、起業は保険の選択肢の幅をもたらしてくれます。 詳しくお知りになりたい方は、無料相談をご活用ください。
https://taiga333.com/contact-us/

老後資金2000万円問題は、あくまで「平均」の数字に基づいた試算です。しかし現実の老後生活は、「平均」に収まらないことばかりです。特に、社会保障費は見落とされやすい落とし穴です。公的年金の通知額や老後資金の試算を鵜呑みにせず、実際の手取り額を意識し、生活設計を行うことが、安心したセカンドライフの第一歩になります。

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