#定年後 9割が選択する再雇用の過酷な現実

 定年延長や再雇用制度は「長寿社会における安定的な雇用確保」として注目を集めてきました。日本では多くの企業が60歳定年を採用していますが、実際にはそのまま引退する人は少数派です。厚生労働省の調査によると、60歳で定年を迎えた後、実に9割近くの人が「再雇用制度」を利用して職場に残っています。背景には、年金だけでは生活資金が不足するという切実な現実があります。

 しかし、再雇用という選択肢は決してバラ色ではありません。最大の問題は「収入の大幅減」です。定年前まで管理職や専門職として責任ある立場を担ってきた人でも、再雇用後は非正規に近い扱いとなり、給与はおおむね定年前の6~7割にまで減少します。なかには半分近くに落ち込むケースも珍しくありません。つまり、定年後も同じ会社に在籍して働き続けながら、仕事量はそれほど変わらないのに、報酬だけが大幅に下がるという現実が待っています。

 さらに、再雇用の労働条件は企業によってまちまちです。勤務地が変わったり、希望しない部署に異動させられたりする例もあります。加えて、労働契約は1年ごとに更新されるのが一般的で、本人にとっては「来年も雇ってもらえるか」という不安が常につきまといます。定年まで40年間勤めあげた忠誠心の対価としてはあまりに不安定であり、多くの人が割り切れない思いを抱えながら働いているのが実情です。

 それでも9割もの人が再雇用を選ぶのはなぜでしょうか。その大きな理由は「65歳まで働き続けることが前提の社会設計」にあります。厚生年金は原則65歳からの受給となり、60歳で退職してしまうと5年間の収入空白が生じます。退職金や貯蓄だけで凌ごうにも、平均寿命が延びる中で資金が足りなくなるリスクは高まります。そのため、多くの人がやむを得ず再雇用に頼らざるを得ないのです。

 実際、60歳以降も働き続ける人の割合は年々増加しています。65歳まで就業する人は全体の7割前後に達し、70歳を超えても働き続ける人も少なくありません。とはいえ、これは「働きたいから働く」というより、「働かざるを得ないから働く」という側面が強いのです。

 こうした状況は個人の生活設計だけでなく、社会全体にも大きな影響を及ぼします。たとえば、再雇用者が増える一方で若手の登用が進まないケースもあります。ポストが空かないために世代交代が滞り、組織の新陳代謝が妨げられるのです。さらに、再雇用者本人のモチベーション低下も深刻です。「同じ仕事をしているのに給料は大幅に下がる」という不満を抱えたまま働くことは、本人にとっても組織にとっても望ましい状態とは言えません。

 もちろん、再雇用制度がまったく無意味というわけではありません。健康で働く意欲のある高齢者が社会に参画し続けられる点では一定の意義があります。また、経験や知識を若手に引き継ぐ役割を担える可能性もあります。しかし、現行の制度は「高齢者の生活保障」と「企業の人件費削減」という相反する目的の間で揺れており、本人が充実感を持って働ける仕組みにはまだ程遠いのです。

 では、どうすれば再雇用の過酷さを和らげられるのでしょうか。ひとつは、シニア世代が「定年後も選べる働き方」を事前に準備しておくことです。定年を迎える前から、副業や資格取得、地域活動などに取り組み、再雇用以外の道を持っておくことは大きな安心につながります。もうひとつは、企業が「再雇用者の役割設計」を明確にし、ただ安価な労働力として扱うのではなく、知識や経験を活かせるポジションを与えることです。そうすることで本人の誇りと組織の活性化が両立できるでしょう。

 私は現在、宅地建物取引士およびマンション管理士の資格取得に向けて学習を進めています。人生100年時代を迎え、セカンドライフ層にとって「終の棲家」をどう選び、どう維持していくかは大きな社会課題となりつつあります。高齢期には、持ち家の老朽化や空き家問題、管理組合の機能不全、バリアフリー対応の遅れなど、住まいに関するリスクが次々と顕在化します。これらは一人ひとりの生活の質に直結するだけでなく、地域社会全体に波及する深刻な問題です。

私はこれらの課題を、単なる「不動産取引」や「管理業務」の枠を超えて、セカンドライフの暮らしを支える事業領域としてとらえています。宅建士としては安心・安全な住まいの売買や賃貸をサポートし、マンション管理士としては管理組合の円滑な運営や資産価値維持を支援する。その両面の専門性を備えることで、セカンドライフ層が安心して住み続けられる仕組みづくりに寄与できると考えています。

特に、これから増加する「高齢者の住み替え需要」や「老後の住まい方の相談」には、大きな起業の可能性があります。住環境の選択肢を広げ、人生後半を自分らしく生きるための住まいを提案することは、社会的ニーズが極めて高い分野です。私は資格取得をその第一歩と位置づけ、新しい事業モデルへと展開していきたいと考えています。

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