「定年後、どこに住むか」は、多くの人にとって避けては通れないテーマです。持ち家か賃貸か、戸建てかマンションか──。それぞれの事情や価値観によって選択は異なりますが、住まいの選び方は、その後の暮らしや安心感に大きく関わってきます。
私自身、これまでにマンションを購入し、その後戸建てに移り住み、そして今後は再びマンションや高齢者向け施設(いわゆる“高専賃”やサ高住)も視野に入れています。その過程で実感した「住まい選びのリアル」について、あくまで一個人の経験と偏見(?)に基づいて、率直に綴ってみたいと思います。
戸建てに住んでみてわかったこと
戸建ての最大の魅力は、何と言っても自由度の高さです。天井の高さや間取りの変更など、自分の判断で改装できるのは大きなメリット。私も自宅の一部を店舗兼事務所として活用しています。また、親の介護時には、空間を自由に使える戸建ての良さを実感しました。
猫の額ほどの土地でも、Luupのポートなどに二次活用できる可能性もあり、小規模ながらも使い道は多様です。
ただし、10年を超えて住み続けると、現実的な問題も見えてきます。複数台のエアコン同時交換等家電の買い替え、駐車場の電動シャッターの交換、外壁の塗り替え、水回りの補修など、維持管理にかかる手間と費用がじわじわと効いてきます。固定資産税も軽くはありません。
また、高齢の母を介護した経験から言うと、戸建てはバリアフリー仕様でなければ生活がかなり不便になります。特に階段の昇降は、介助する側にもされる側にも大きな負担です。
マンションの安心感と限界
その点、マンションはワンフロアで生活が完結するため、バリアフリー対応がしやすく、セキュリティ面でも安心です。鍵一つで外出でき、管理人やコンシェルジュがいる物件も増えています。
ただし、こちらも築年数が経てば修繕積立金が値上がりしますし、管理組合との関係(理事や管理者の当番など)に煩わしさを感じることもあります。エレベーターが使えなくなるなど、災害時のリスクも念頭に置いておくべきでしょう。特に、親との同居や介護を考えると、スペースや構造の面からも、マンションでは難しいと感じています。
賃貸か、持ち家か──揺れる価値観
私はもともと「賃貸派」でした。住み替えのしやすさや、物に縛られない身軽さに魅力を感じていたからです。しかし、二度目の海外赴任で国内外に生活拠点が必要となり、40代で初めてマンションを購入しました。当時は現地も見ず、妻に任せきりで、正直そのマンションがどこにあるのかもよく分からないまま契約したほどです。
その後、独立して起業することになり、思いがけずそのマンションが原資となりました。住まいが資産として活用できた経験は、賃貸では得られなかったことでしょう。
これからの選択肢は「縮小」と「共有」
現在私は戸建てに住んでいますが、将来的には売却して再びマンション、あるいはあるいは高専賃へという流れを考えています。
その理由は、管理の手間を減らしたいからです。体力・気力・お金が限られていく中で、住まいの管理面積や移動距離、階段の数などを「減らしていく」という発想が大切だと感じています。
地方にある実家も、完全リタイア後の終の棲家の選択肢として検討したことはありますが、医療や介護、福祉の体制が不十分で、車がなければ生活できない環境。免許返納後の暮らしをイメージできなかったため、売却することにしました。
また、高齢になると賃貸は「借りにくい」という現実にも直面します。年齢や収入、保証人の有無などで審査が通らないこともあり、引っ越しそのものが負担になることも。だからこそ、なるべく元気なうちに「次の住まい」の準備を始めるべきだと痛感しています。
家族には頼らない。でも、共有はする
私は基本的に「家族や親戚には頼らない」方針です。今の時代、誰もがそれぞれの生活で精一杯。だからこそ、自分の意志と計画をきちんと共有しておくことが重要だと思っています。
「将来はここに移るつもり」「家はこうする予定」と事前に伝えておくだけで、余計な心配や争いを避けることにもつながります。思いを言葉にし、行動に移す。その繰り返しが、安心と納得を生むと実感しています。
終わりに──自分らしく、生きやすく
住まいに“正解”はありません。ただ一つ確かなのは、「住む場所」は「生き方そのもの」に深く関わっているということです。
広い家に住むことが幸せな人もいれば、コンパクトで管理のいらない住まいで心穏やかに過ごしたい人もいます。私にとっては、「身軽であること」と「将来の選択肢を持っておくこと」が、今の暮らしを支えるキーワードです。
50代からの住まい選びは、第二の人生の設計図。
「今どうしたいのか」「これからどうなりたいのか」を見つめ直す、絶好のタイミングかもしれません。あなたの“住まい”は、あなたらしく生きるための大切な舞台になります。