#コアターゲット外だからこそ、シニア市場は面白い。大企業が手を出しにくい“最後の成長市場”——シニアの力で切り拓く未来

企業やテレビ局がマーケティング活動において重視する「コア視聴率」とは、13歳から49歳までの男女による個人視聴率を指します。これはマーケティングの世界では常識ともいえる基準であり、この年齢層を超えると広告の反応率が極端に下がるとされています。言い換えれば、50歳を過ぎた人々の消費行動は、企業の経済活動において「主役」とは見なされていないのが現実です。

確かに、定年後の消費行動には明らかな変化が見られます。車や家電、大型家具、海外旅行など高額な支出は減少し、関心は健康維持や生活の快適性といった日常に根ざしたテーマに移っていきます。
特に60代後半から70代にかけては、「物を買うより減らす」「新しいものより今あるものを活かす」といった価値観が定着しつつあり、大量生産・大量消費を前提とする従来のマーケティングとは親和性が低い層だといえるでしょう。

それでも、超高齢化社会の中でシニア市場の存在感は増しています。
私自身、広告代理店に在籍していた当時、「どうすればシニア層をビジネスとして成立させられるか」を幾度となく模索してきました。しかし現実には、ナショナルクライアントの多くがブランドイメージの維持を重視し、中・高齢者を直接ターゲットにすることに消極的な傾向がありました。仮にシニア市場に参入する場合も、既存ブランドとは切り離した別ブランドや、子会社的なスキームを通じて対応するケースがほとんどです。

こうした背景から、シニア市場は「手間やリスクが大きいわりに、リターンが見えにくい」として、ナショナル企業が積極的に手を出しにくい領域となっているのです。

しかし、総務省の統計によれば、70代の約半数が何らかの形で働いており、定年後も経済活動に参加する人々が着実に増えています。つまり、そこには確かな経済的な基盤が存在しているにもかかわらず、従来のマーケティング手法ではその実態を捉えきれていないのです。テレビCMやネット広告のようなマスマーケティングでは届かず、データベースマーケティングで拾えるような行動パターンにも当てはまりません。

だからこそ、シニア市場の開拓には「フィールドワーク」が欠かせません。実際に現場に足を運び、リアルな生活者の声を聞き、小さなニーズを丁寧に拾い上げる。そうした積み重ねの先に、これからのマーケティングの可能性が広がっていると私は考えます。

言い換えれば、シニア市場とは以下のような特徴を持つ領域です。

1. ナショナル企業が本格的に参入しにくい
ブランドイメージの維持、効率性重視の経営方針、明確なターゲット層の設定などの理由から、大企業はシニア層に向けた積極的な戦略をとりづらい状況にあります。

2. ニッチ市場が中心である
健康、趣味、地域密着型サービス、生活支援など、多様かつ小規模なニーズが存在します。大規模展開には向かないものの、柔軟な発想と小回りの利く対応が求められ、参入障壁は決して高くありません。

3. ニーズの発掘と市場創造が必要
シニア自身が自らのニーズに気づいていないケースも多く、既存の商品やサービスでは解決できない課題が数多く存在しています。そこに着目し、価値を見出し、商品・サービスへと昇華させる力が求められます。

たとえば、「老後の住み替え」「ペットと暮らす高齢者支援」「再就職支援」「遺品整理や空き家の片付けサービス」「軽い運動を取り入れたサロン運営」など、ニッチながらも着実な需要が見込める分野は枚挙にいとまがありません。

こうした市場を切り拓いていくのは、ナショナル企業ではなく、地域に根ざした小規模な事業者や個人のほうが適しています。顧客との距離が近く、信頼関係を築きやすいことに加え、柔軟で臨機応変な対応が可能です。また、同世代の経験者が提供するサービスであれば、より深い共感と安心感を与えることができるでしょう。

シニアマーケットの開拓は、もはや「売れる商品を作る」だけでは成り立ちません。「役に立つこと」「感謝されること」「人と人のつながりを生むこと」といった、生活の質(QOL)に直結する価値提供が求められています。

だからこそ、私たちが取り組むべき方向性は明確です。ナショナル企業が踏み出せない領域に私たち自身が入り込み、小さな声を拾い、新しい価値を創り出していく。効率や規模の追求よりも、共感と信頼に基づいたマーケットづくり。そこにこそ、これからの時代におけるマーケティングの新たな主戦場があると、私は確信しています。

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