アメリカでは、毎日約1万人が65歳の誕生日を迎え、2030年までには国民の5人に1人が65歳以上になると予想されています。このような高齢化が進む中、注目されるのがシニア世代の起業活動です。

スタートアップに関するデータ「カウフマン・インデックス」によれば、起業率が最も高い年齢層は55~64歳であり、この傾向は過去15年間変わっていません。シニア起業家たちは、従来の「若さ」への偏重を見直し、「年齢を重ねた大胆さと賢明さ」を象徴する存在として新たなイメージを築いています。

シニア起業家の増加とその背景
2014年のメリルリンチの報告書では、従来の引退という概念に縛られない高齢者が、若年層に比べて3倍の確率で起業することが示されています。彼らが取り組む事業は、シンプルなものづくりから巨額の売上を生むテック企業まで多岐にわたります。現在、高齢者人口は「成長する最大の持続可能な自然資源」とも言われ、人生経験やキャリアを生かす彼らの知恵とスキルは、社会的・経済的に大きな価値を持っています。

シニア起業の成功率も際立っており、70%を超える成功率を誇ります。一方で若い起業家の場合、その割合は28%に留まります。これには、長年の経験や築き上げた人脈、リスクを見極める判断力が影響していると考えられています。

シニアが起業する理由とメリット
シニア世代が起業する動機には、「自由なペースで働きたい」「これまでの経験や人脈を活用したい」「生きがいを見つけたい」などが挙げられます。経済的な背景も理由の一つです。ベビーブーマー世代は2008年の金融危機で多くの資産を失い、多くの人が退職時期を延期する必要に迫られました。また、平均寿命が延びたことで、老後の経済的準備が不十分な状況も生じています。このため、シニア世代の中には「やりたかったことに挑戦する最後の機会」として起業を選ぶ人も少なくありません。

起業のメリットとしては、長年の経験を活かせることに加え、社会とのつながりを保てることが挙げられます。これにより、健康維持や精神的な充足感が得られるとともに、地域経済の活性化や新たな雇用の創出にも寄与します。

シニア起業家が抱える課題
一方で、シニア起業家が直面する課題も存在します。収入の不安定さや事業の失敗リスク、体力的な負担は無視できない要素です。それでも、これらの課題を補うための柔軟な働き方やサポートプログラムの拡充が進んでいます。
人気の業種としては、コンサルタント業、小売業、飲食業、さらには教育・学習支援分野が挙げられます。これらの業種は、彼らの経験やスキルを最大限に活用できる場として適していると考えられています。

シニア起業家の競争優位性
シニア起業家の競争力は、その長年の経験と、独自の視点にあります。彼らは成功と失敗の両方を経験しており、新たな問題に対して的確かつ効率的に対応できます。さらに、長いキャリアを通じて培ったレジリエンス(回復力)は、デジタル化が進む現代社会において特に重要なスキルとなっています。

また、リスクを天秤にかけて熟考できる能力は、シニア起業家の特徴の一つです。多くの失敗を乗り越えた経験から生まれる大胆さと冷静さが、彼らの起業活動を後押ししています。

高齢者に対する偏見を覆す存在
シニア起業家は、高齢者に対する古いステレオタイプを覆す存在でもあります。たとえば、高齢者が社会保障費や医療費を「食い尽くしている」という偏見がありますが、実際にはシニア世代は年間1200億ドル以上の連邦税を納め、経済を支える重要な存在です。バブソン大学の調査では、アメリカの小規模企業の半数以上が50歳以上の経営者によって運営されていることが明らかになっています。

シニア起業家が創設する企業は主に小規模なものですが、その累積による雇用創出効果は非常に大きく、アメリカの雇用の約50%を支えています。このように、シニア世代の活躍は、社会や経済全体に大きな影響を与えているのです。

シニア起業がもたらす未来
アメリカではかつてないほど多くのシニアが働いています。現時点ではミレニアル世代が労働者の中で最も多いですが、シニア層も追いついてきています。アメリカ労働省によると、2024年までに、55歳以上の労働者は全体の24.8%を占める最大のグループとなります。シニア起業家たちは、自身の働き口を創出するだけでなく、他者にも雇用の場を提供することで、地域経済や国の経済を活性化させています。また、社会とのつながりを保つことが、健康維持や医療費の削減にもつながるというデータもあります。これにより、社会保障費の負担軽減という副次的な効果も期待されています。

これまでの「引退」という概念を再定義し、世代や文化、地理的な境界を越えて活躍する彼らは、高齢化社会の中で重要な役割を果たしています。シニア起業は、未来の経済や社会のあり方を示す新しいモデルとして注目を集めています。

出典:アメリカ労働省
   バブソン大学の2016年の調査
   アメリカにおけるスモールビジネスの状況(State of Small Business in America report)

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