認知症の増加とその影響:2025年問題に向けて
日本では、急速な高齢化が進行しており、それに伴い認知症の有病率が大きな社会問題となっています。厚生労働省の推計によれば、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人(18.5%)約730万人が認知症を患うと見込まれています。この割合は2012年の15.0%から増加しており、今後もさらなる上昇が予想されています。
認知症の進行は、「前兆」「初期」「中期」「末期」の、4つの進行段階に分けることができます。
症状は時間をかけて進行しますが、 我々は「前兆」を見過ごし「初期」段階で検査を固辞したことで、約1年半で「末期」にまで至ってしまいました。
前兆(軽度認知障害)
記憶障害が現れるものの、日常生活に支障はありません。多くの場合「歳のせい」と軽視されますが、軽度認知障害(MCI)と呼ばれ、この段階で適切な対応をしないと高確率で認知症に移行します。
初期(軽度)
直近の出来事を忘れる、同じ話を繰り返す、時間や日付が分からなくなるなどの症状が現れます。判断力の低下や意欲の減退も見られ、以前はできていたことが徐々に難しくなります。
中期(中度)
記憶障害が深刻化し、自立した生活が困難になります。食事をしたことを忘れる、自分がどこにいるか分からなくなるなどの見当識障害が見られ、徘徊することもあります。この段階では日常的なサポートが必要になります。
末期(重度)
認識力やコミュニケーション能力が著しく低下します。人を認識できず、言葉も理解できなくなることが多いです。また、失禁、不潔行為、運動障害が進行し、寝たきりになるケースも多いです。誤嚥性肺炎や感染症のリスクが高まり、手厚い介護が求められます。
認知症の本質と初期の重要性
認知症は脳の病気で、加齢とともに脳細胞が死滅したり機能が低下することで、記憶力や判断力に障害をきたします。初期段階では自覚症状が乏しく、本人や周囲が気づきにくいため、進行してから対応を迫られるケースが少なくありません。しかし、現在では初期の治療により進行を遅らせることが可能な薬も開発されています。そのため、健康なうちに検診を受け、早期発見と適切な治療を受けることが極めて重要です。事前に家族と話し合いを重ね、検診や治療について合意を得ておくことが、後の介護負担を軽減する第一歩となります。
親の認知症介護の課題
高齢者人口が全人口の約29%を占める日本では、認知症を患う親の介護が多くの家庭で深刻な問題となっています。特に、認知症の介護は精神的・身体的な負担が大きく、他の社会的課題と比較して「お金で解決できない」点が特徴的です。在宅介護の場合、軽度の段階では本人が病気を認めず、適切なケアに難航することがあります。さらに、徘徊や昼夜問わない介護が必要となる重度の段階では、介護者は生活のすべてを介護に捧げざるを得なくなり、心身ともに疲弊することが少なくありません。
施設介護の現状と課題
認知症介護において、介護施設の利用は大きな助けとなる一方、施設への入所にも課題が伴います。軽度の段階では施設に入所できないことが多く、在宅介護が求められます。また、一度入所できたとしても症状の進行や施設の事情により、転所を余儀なくされるケースも少なくありません。特に、重度の認知症患者は専門的なケアが必要であり、施設の選択肢が限られるため、家族の負担が完全に解消されるわけではありません。
事前準備の重要性
認知症への備えは、個人や家庭が主導して行うことが求められます。具体的には、以下の取り組みが効果的です。
・早期検診: 健康診断の一環として認知症の検査を取り入れる。
・家族間のコミュニケーション: 認知症に関する理解を深め、対応方針を共有する。
・福祉サービスの利用: 地域の介護支援サービスや相談窓口を活用する。
・経済的準備: 介護にかかる費用を見積もり、資金計画を立てる。
まとめとして
認知症の「前兆」や「初期」段階では、外見上は健常者と変わらないため、施設入所が難しいことが多く、本人が認知症検査を拒むケースも少なくありません。また、外部に相談しづらい状況が続くと、家族がすべてを介護優先にせざるを得なくなり、協力や介護費用の分担が必要になります。これを防ぐためには、日頃からのコミュニケーションを大切にし、異変を感じた際は早めに地域包括支援センターへ相談することが重要です。
また、認知症が進行すると、財産管理や相続が難しくなります。成年後見人制度の活用が有効ですが、近年では身内より第三者の選任が一般的になっています。認知症の早期発見と治療、そして家族や社会全体の協力は、介護負担を軽減し、患者の生活の質を向上させるために欠かせません。認知症は誰にとっても身近な問題であり、備えと理解が必要な課題です。