毎年テト(旧正月)の時期には社員旅行を実施していました。最初の行き先は国内リゾート地のニャチャンでしたが、広告会社で社員のほとんどが海外に行ったことがなかったため、見識を広げる目的で次年度からホーチミンから飛行機で1時間半ほどで行けるタイのバンコクへと変更しました。社員たちの頑張りで業績が堅調に推移していたことや、ツーリストビザの取得が容易になったこともあり、その後もホーチミンからシンガポール、マレーシア、バンコクなど、フライト時間が1時間半から2時間で行ける近隣諸国に毎年連れて行くことができました。
写真がハワイではないかと思われた方もいらっしゃるかもしれません。彼らの努力のおかげで現地法人の設立が決まり、初年度から黒字化も達成しました。社員たちは「いつかはハワイに行きたい」と言っていたため、最後の社員旅行はホーチミンから遠く離れたアメリカ領ハワイに全社員で行くことにしました。飛行時間が15時間以上かかり、1人当たりの費用も格段に上がるため、1年ほど準備期間を設け、本社との折衝を始めました。
予算だけでなく、アメリカの旅行ビザが全員分取得できるかどうかも不確実でした。また、ハワイで自主的“行方不明者”が出るのではというリスクもありました。アメリカで就労したいベトナム人が少なくなく、行方不明になると会社にとって大きな問題になる可能性があったため、正直なところ躊躇していました。しかし、私の帰任も近づいていたため、アメリカ領事館や関係者に何度も確認を取り、最終的に20名ほどでハワイ旅行を実現することができました。
確かオアフ島で4泊5日のスケジュールだったと思います。 ハワイへの社員旅行の大変さを物語るエピソードの一つかもしれませんが、ホノルル空港に到着した際、現地のツアーガイドに「ベトナムから社員旅行で来た」と伝えると、「年間に7~8名しかベトナムからの観光客が来ないのに、一気に20名のベトナム人が来た!」と驚かれ、「クレイジーだ」と笑いながらも手厚く歓迎されました。 当初、ベトナム人であることが現地でどう受け入れられるか少し心配していましたが、結果的には取り越し苦労に終わり、旅を存分に楽しむことができました。
社員を海外に連れて行くことは、個々の成長だけでなく、社会貢献にも繋がる重要な機会だと考えています。異文化に触れることで視野が広がり、国際的な課題に対する理解が深まります。私自身も海外でのビジネス経験を通じて、現地の雇用創出や社会問題の解決に取り組む重要性を学びました。
ベトナムに赴任していた時期は、バブル崩壊後の「失われた30年」と重なります。日本社会は縮小し、閉塞感が漂っています。成果主義が主流となり、企業は利益を最優先にするあまり、社員を育てる余裕がなくなっているのではと感じています。この責任の一端は、私たちの世代にもあると思います。バブル崩壊前は、社員育成や社会貢献がもっと重視されていたように感じます。
今の日本社会は、先行きが不透明で超高齢化社会へと突き進んでいますが、働き方改革、インターネットの普及、リモートワークなどで多様な生き方ができる時代になっています。 私たちの世代ができることは、定年退職後のセカンドライフにおいても生きがいを持ち、第二の人生を楽しんでいる姿を次世代に示すことだと感じています。何かに挑戦し、セカンドライフを前向きに歩む姿勢が、次世代に伝えられる最も重要なメッセージの一つになるのではと考えています。