制度と現実のねじれ──#2025年4月施行65歳雇用義務化と急増する#早期退職者募集のはざまで、募集対象に必ずと言って良いほど入る50代が今考えるべきこと

2025年4月から、企業には希望者全員を対象とした「65歳までの雇用確保」が義務付けられます。これは、人生100年時代における高齢者雇用の安定を図る国の施策であり、働く側にとっても将来設計に安心感を与えるものと期待されています。

しかしながら、その制度の趣旨とは裏腹に、企業の現場では矛盾する動きが加速しています。

2025年5月13日、日産自動車は経営再建策「Re日産」の一環として、グローバルでの従業員2万人削減、工場数を17から10へ削減すると発表しました。この2万人には、生産部門やR&D部門、さらには契約社員まで幅広く含まれます。そして国内では、2007年以来18年ぶりとなる早期退職の募集が始まったことが判明。しかもその対象は、「開発・生産・デザイン部門以外」の正社員および再雇用のシニア職員で、45歳から65歳未満の管理職や一般職とされています。 ※正式には6月中旬以降に、詳細を明らかにする方針。

つまり、国が掲げる「65歳まで働ける社会」という理念に対し、企業現場では「65歳になる前に退職してもらう」という動きが起きているのです。制度と現実のギャップ、中高年雇用におけるねじれが、今まさに表面化しています。

この背景には、急速な経営環境の悪化や、世界規模の構造改革の波があります。関税の影響、グローバル競争の激化、電動化やAI導入などの技術革新が従来の労働構造を根底から揺さぶり、「守るべきは制度よりも企業の生存」とする経営判断が働く現場を直撃しているのです。

東京商工リサーチによると、2025年1月から5月15日までの早期・希望退職者の募集人数は8,711人と、前年同期比で87.1%も増加。大手メーカーによる大規模な募集が相次ぎ、今後は2009年の2万2,950人を上回る可能性すらあると言います。

こうした状況の中で、50歳を過ぎた方々は何を考え、どう行動すべきなのでしょうか。

ひとつの視点は、「定年を迎えてから考える」のではなく、「50代の今こそ、定年後の人生を設計すべき」という考え方です。

65歳までの雇用が制度として保証されるとはいえ、それは企業にとって「必ず雇い続ける」という義務ではなく、「再雇用制度などの仕組みを整えておけばよい」という柔軟な解釈が可能な制度です。つまり、実際には非正規や契約社員としての再雇用が中心で、待遇や役割は大幅に変わるケースが少なくありません。

さらに今回のような早期退職募集の動きが今後も増えれば、「制度がある=安心して65歳まで働ける」という前提そのものが揺らぎます。

ここで改めて問いたいのは、「我々は、会社に運命を委ねて大丈夫ですか?」ということです。
多くの人が長年一つの会社に勤め、定年までの安定を信じてきたかもしれません。しかし今や、その信頼は必ずしも保証されるものではなくなりました。むしろ、自らの意志で働き方や生き方を再構築する時期が、50代なのではないでしょうか。

もちろん、いきなり起業や転職をする必要はありません。しかし、将来に備えて「どこで、どんなふうに働きたいか」「年金以外にどのくらいの収入が必要か」「何歳まで社会と関わりたいか」など、自分自身の“ライフシミュレーション”を行うことは、今後の人生を左右する大切な作業になります。

また、60代以降も働く意志がある方にとっては、今から副業やリカレント教育、ボランティア、地域活動などを始めることで、会社以外の社会との接点を持ち、第二のキャリアの土台を築くことができます。

あるいは、自分のスキルや経験を活かして、小さな起業に挑戦する道もあります。大きな投資をしなくても、インターネットを活用したスモールビジネスや、資格を活かしたサービス業など、柔軟な働き方は増えています。

つまり、人生100年時代の今、セカンドライフの働き方は「自ら切り拓き、デザインし、設計していくもの」と言えるのかもしれません。
制度にただ守られることを期待するのではなく、制度を正しく理解した上で、自分の生き方や働き方を主体的に選び取っていく──そんな姿勢が、これからの長い人生を安心して、そして自分らしく生き抜くために不可欠な時代になっています。

早期退職募集の動きも、決して他人事ではありません。むしろ、それをきっかけに、割増退職金などの制度を賢く活用しながら、「これから自分はどう働くのか」「どう生きたいのか」「何を大切にして生きるのか」を真剣に見つめ直し、シミュレーションし、行動に移すことこそが、真の意味での“備え”になるのではと思います。
セカンドライフは、準備の仕方次第で、生きがいや自由を感じられる時間になります。その可能性を、企業や国に依存せず、自らの手で設計していくことが求められていると、また定年後の30年ほどの期間はそれに値する長さと言えます。

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