公的年金受給金額と支出との乖離
アメリカで公的年金を受け取るには通常10年以上(40単位)の就労が必要です。受給額は単身者で月額約1,277ドル(約14万円)、家族持ちで約2,382ドル(約27万円)ですが、65歳以上の家計の平均月間支出額は4,000ドル(約56万円)に達し、公的年金だけでは支出をまかなえません。このため、不足分を企業年金や個人年金、資産運用で補う必要があります。
しかし、2020年の国勢調査では、勤労者の半分が老後のための十分な貯蓄を持っておらず、多くの人々は退職後に経済的困難に直面しています。
老後資金の目安と蓄えの実情
理想的には、退職前までに50万ドル(約7,000万円)または年収の10倍の蓄えが必要とされています。2022年時点での年収中央値を基に計算すると、一人暮らしでは約5180万円、共働き世帯では約9900万円となります。しかし、実際には多くの人がこの水準に達していません。例えば、60歳から67歳の人々で「十分な蓄えがある」と答えた割合はわずか24%です。また、65歳から74歳の人々の貯蓄額中央値は約16万4,000ドル(約2,296万円)と、理想額には程遠い状況です。
企業年金制度の格差
企業年金が存在するのは主に大企業で、中小企業や低所得層の多くはその恩恵を受けられません。従業員10人未満の企業の78%、1000人以上の企業でも約3分の1が企業年金を提供していないのが現状です。そのため、多くの人が個人退職勘定(IRA)に頼らざるを得ませんが、低所得者にとっては開設のハードルが高い場合もあります。
さらに、教育水準や人種によっても企業年金の受給状況に大きな差があります。高卒以下の76%、大卒の50%が企業年金を持っておらず、またヒスパニック系の64%、黒人の53%、アジア系アメリカ人の45%も受給していない状況です。
医療費と老後の負担
老後の資金不足で最初に問題となるのは医療費です。推計では、65歳以上の人が必要とする医療費は平均12万900ドル(約1700万円)にもなりますが、多くの人は2年分程度の費用しか準備できていません。このため、メディケア(高齢者医療保険)に頼るしかないのが現実です。
生涯働き続ける高齢者たち
老後資金が不足している人々の選択肢は限られており、その多くが「できるだけ長く働き続ける」ことを余儀なくされています。2023年時点で、75歳以上で働く人の割合は11%で、1996年の5%から大幅に増加しています。2023年の調査では、20%の人が「生涯働き続ける」と答えており、その70%が経済的理由を挙げています。
また、年金受給開始を遅らせることで受取額を増やす方法を選ぶ人もいます。62歳から年金受給は可能ですが、70歳まで開始を遅らせると月々の受取額が倍増します。さらに、持ち家を担保に資金を得る「リバース・モーゲージ」も利用されています。
アメリカに限らず世界的に平均寿命がどんどん長くなっており、引退後の20~30年をどう過ごすかについて決まった青写真は日本と同様になく。各国で高齢者たちが第2の人生設計を立てているなか、シニア層が培ってきた経験が経済に与える影響も注目され始めています。
それまでの起業家のイメージは、テクノロジーに精通した20代前半のイノベーターですが、スタートアップに関するデータ「カウフマン・インデックス」によれば、アメリカのシニア起業の状況は、高齢者の起業成功率が70%を超えているという調査結果があり、シニアの方が起業において有利であることを示唆しています。アメリカで起業率が最も高い年齢層は55~64歳で、過去15年間同じ傾向が続いています。
次回は、アメリカでのシニア起業の状況についてお伝えできればと考えています。