大企業を中心に、早期・希望退職を募集する動きが広がっています。昨年度、上場企業が募集した人数は約2万人に達し、前年度の約2.5倍になったといいます。かつては業績が悪化した企業による人員削減という印象がありましたが、最近では黒字企業でも、中高年層を対象に組織の若返りや人員構成の見直しを進める動きが見られます。
割増退職金を受け取り、会社を離れて、自分らしい第二の人生を歩みたい。そう考える50代の方も少なくないでしょう。一方で、早期退職者の15%が「退職を後悔している」というデータも紹介されています。
私はこれまでにも、早期退職について何度かコラムを書いてきました。今回は制度の損得や成功・失敗ではなく、退職直後には後悔していた私が、さまざまな葛藤と試行錯誤を経て、なぜ今は「早期退職してよかった」と思えるようになったのか。その心の変化を振り返ってみたいと思います。
いま早期退職を迷っている方、あるいは退職後に「この選択でよかったのか」と悩んでいる方にとって、一つの体験談として何かの支えになれば幸いです。
56歳で早期退職――「辞めても何とかなる」と思っていた
私は33年間勤めた会社を、56歳で早期退職しました。
退職時点で、その後に何をするのかという明確な計画があったわけではありません。「これまで何とかやってきたのだから、会社を辞めても何とかなるだろう」という気持ちが、正直なところありました。
長年の会社員生活から解放され、自分の時間を自分で使えるようになる。退職前には、そんな期待もありました。
しかし、実際に会社を離れ、毎月入ってきた給与がなくなると、想像していた以上の不安に襲われました。
小さいながらテナント収入と割増金があったため、すぐに生活が立ち行かなくなる状況ではありませんでした。それでも、給与収入がなくなったという現実を前にすると、「このままでよいのだろうか」「次に何を始めればよいのだろうか」という思いが頭から離れませんでした。
退職から約1年半は、何をすればよいのか分からず、早期退職を後悔することが何度もありました。
自由を得たはずなのに、気持ちは自由ではありませんでした。
収入への不安が焦りを生み、焦りが判断を鈍らせた
会社員の時には、決まった日に給与が振り込まれます。しかし、退職すれば、それまで当然だった収入が途絶えます。
頭では分かっていたことでしたが、実際に経験すると、その心理的な影響は想像以上でした。収入がないことへの不安から、早く次の仕事や事業を形にしなければならないと焦るようになりました。
ところが、焦れば焦るほど視野が狭くなり、結果を急ぐあまり、物事がうまく進まなくなります。うまくいかないと、「会社を辞めなければよかったのではないか」という思いが強くなる。その繰り返しでした。
途中で再就職も考え、ハローワークへ足を運びました。しかし、私の年齢で、それまでの経験を生かせる事務系の仕事はほとんど見つかりませんでした。
会社の中では長年の経験や実績が評価されます。しかし、会社という看板を外した時、それらが同じように社外で評価されるとは限りません。
「自分は33年間働いてきたのだから、何かできるはずだ」という思いと、実際に市場から仕事を任せてもらえることには隔たりがありました。自分の経験の何が会社の外でも役立つのか、誰にどのような価値を提供できるのか。退職後になって初めて、その現実を突きつけられました。
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2年目から少しずつ動き始めた
退職2年目には、仕事をしながら起業の準備を進めるようになり、気持ちも少しずつ安定していきました。自分に足りない知識を補うため、資格取得にも取り組みました。
当初は、33年間の経験を生かして、ある程度の規模の事業を立ち上げたいと考えていました。せっかく起業するのだから、一定の売上をつくり、事業として成長させたい。そのような思いもありました。
しかし、第二の人生は計画どおりには進みませんでした。
退職4年目にはコロナ禍と家族の介護が重なり、生活も事業も方向を見失いました。外出が難しくなり、それまで取り組んでいた自然栽培茶の事業をたたむことにしました。事業で使っていた店舗はテナントとして貸し出し、介護中でも自宅で続けられるオンラインのコンサルティング業務に取り組みました。
多品種を扱っていた雑貨小売業も、天然石に特化しました。仕入れや在庫、日々の運営負担を減らし、自分が無理なく管理できる大きさへ縮小しました。
その時々では、計画どおりに進まないことや事業をたたむことを、失敗のように感じていました。しかし今振り返ると、続けられないものを手放し、自分の年齢、家族の状況、使える時間に合わせて、仕事を組み替えていく過程だったのだと思います。
一つの大きな起業ではなく、三つの小さな仕事で支える
現在は、テナント賃貸業、コンサルティング、天然石に絞った小売という、三つの小さな仕事を組み合わせています。
一つひとつは大きな事業ではありません。しかし、一つの仕事だけに生活を委ねず、それぞれが補い合う形にしたことで、ようやく自分に合った働き方が見えてきました。
50代で早期退職するとなると、再就職するか、起業するか、完全に引退するかという三つの選択肢で考えがちです。私自身も、当初は「起業するなら、ある程度の規模にしなければならない」と考えていました。
しかし、第二の人生の働き方は、必ずしもそのどれか一つを選ぶ必要はありません。
基盤となる収入を持ちながら、小さな事業を育てる。週に何日か働きながら、自分の活動を続ける。複数の小さな収入源を組み合わせる。家族の事情や体力の変化に合わせて、仕事の規模を見直す。そのような働き方もあります。
大きく始めることよりも、無理なく続けられる大きさを見つけること。それが50代、60代の起業には大切なのかもしれません。
65歳で四本目の柱ができ、意識が社会貢献へ向かった
そして65歳からは、年金を受給するようになりました。
テナント賃貸業、コンサルティング、天然石に絞った小売という三つの小さな仕事に年金が加わり、生活を支える四本の柱ができました。
もちろん、年金だけで生活のすべてを賄えるわけではありません。それでも毎月一定の収入が加わったことで、早期退職直後に感じていたような収入への不安は和らぎ、気持ちにも少し余力が生まれました。
その余力によって、私の意識は「自分の生活をどう支えるか」だけでなく、「これまでの経験や得てきたものを、どのように社会へ還していくか」へ向かうようになりました。
そこで取り組もうと考えたのが、返済不要の小規模起業支援を行う「TAIGA恩送りファンド」です。
早期退職した当初は、自分の将来への不安で精いっぱいでした。その後、いくつもの仕事を試し、事業を整理し、三つの小さな仕事と年金という四本の柱にたどり着いたことで、社会貢献事業のことにも目を向けられるようになりました。
振り返れば、早期退職後の試行錯誤は、単に自分の収入を確保するためだけの時間ではなかったのだと思います。自分に合った働き方を探し、その先にある社会との関わり方を見つけるために必要な時間でもありました。
「早期退職を後悔した」という気持ちは、少しずつ変わった
退職直後の私は、会社を辞めたことを何度も後悔しました。
もし会社に残っていれば、毎月の給与があり、仕事も立場も決まっていたでしょう。先の見えない不安や、自分には何ができるのかという問いに、これほど悩むこともなかったかもしれません。
一方、同じ頃に定年を迎えた同期の多くは再雇用契約を選びました。しかし、仕事内容はそれまでとあまり変わらないのに収入が大幅に減り、65歳を待たずに辞めた人も少なくなかったと聞きました。
会社に残れば安心で、早期退職すれば自由という単純な話ではないのでしょう。どちらを選んでも、それまでと同じ働き方や収入が続くとは限りません。大切なのは、自分がどのように働き、何を大切にして生きていくのかを考えることです。
私は、早期退職後すぐに「辞めてよかった」と思えたわけではありません。後悔し、迷い、焦り、何度も方向を変えました。
それでも、小さな挑戦を重ね、続けるものとやめるものを選び直しながら、自分に合う仕事の形を見つけてきました。その過程を経た今は、早期退職したからこそ、自分の意思で働き方を組み立て直し、その先に道半ばではありますが、TAIGA恩送りファンドという社会貢献の目標を見つけることができたと思っています。
会社を辞めたことへの後悔は、いつの間にか、「もっと在職中から準備しておけばよかった」という後悔へ変わりました。そして今は、遠回りではありましたが、67歳になった今、ようやく早期退職してよかったと思えるようになりました。
私が本当に後悔しているのは、辞めたことではなく
早期退職をめぐっては、「会社を辞めても他で通用するスキルや人とのつながりを持っている人が選ぶべきだ」という厳しい意見もあります。その指摘には一理あると思います。
ただし、私は「特別なスキルがない人は辞めるべきではない」とまでは思いません。
私が本当に後悔しているのは、早期退職したことではなく、50代の在職中に、会社の外で働く準備をもっと具体的にしておかなかったことです。
可能であれば、会社員として給与を得ている間に、兼業や副業という形で小さく試してみる。自分の経験を必要としてくれる人がいるのか、少額でも対価を得られるのかを確かめてみる。社外の人とつながり、自分に足りない知識や能力を知る。うまくいかなければ、給与がある間に方向を修正できます。
資格を取ることだけが準備ではありません。副業、ボランティア、地域活動、週に一度の仕事も、会社の外で自分の可能性を知る機会になります。
また、仕事は収入を得る手段だけではありません。生活のリズムをつくり、人と出会い、自分の役割を感じる場でもあります。退職金や生活費を計算するだけでなく、会社を離れた後に誰と、どこで、どのようにつながるのかも考えておく必要があります。
早期退職の選択した中に、葛藤を感じるている方がいらっしゃれば・・・
早期退職者の15%が退職を後悔しているという数字を見て、私は、後悔している人が必ずしもその選択を一生後悔し続けるわけではないと伝えたいと思いました。
私のように、退職直後は後悔していても、試行錯誤を重ねる中で、その意味が変わっていくことがあります。
第二の人生を退職前に完璧に設計することはできません。社会環境も家族の状況も変わります。自分の体力や考え方も変化します。計画どおりに進まないことの方が多いかもしれません。
それでも、大きな目標を一度に実現しようとせず、目の前の景色を少しずつ変えるように、小さな挑戦を続けていく。うまくいかなければ、規模を小さくしたり、別の方法を試したりする。その繰り返しの中から、自分に合った仕事や社会との関わり方が見えてくるのだと思います。
いま早期退職を後悔している方も、まだ結論を急ぐ必要はありません。後悔は、最終的な答えではなく、次の生き方を探している途中の感情かもしれません。
早期退職するか、会社に残るか。それ以上に大切なのは、会社の外にも自分の居場所と小さな足場をつくることです。
私の場合、その小さな足場がやがて四本の柱となり、さらに自分のためだけではなく、誰かの新しい一歩を支えるTAIGA恩送りファンドへとつながっていっていると感じています。
50代は、第二の人生を決め切る時期ではありません。これからの生き方を小さく試し始める時期です。そして、その試行錯誤の先に、自分が社会に返せるものが見つかることもあるのではないでしょうか。
※早期・希望退職の募集人数、退職後の後悔や孤独などに関する記述は、
『ABEMA Prime』「『早期退職』も…第二の人生は甘くない?」を参考にしました。
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