【恩送りファンド実証実験】コラム#9|起業支援金30万円を「10万円×3回」に分ける理由

「返済不要の起業支援金として30万円を受けられるのであれば、最初に全額を確約してもらった方が安心して準備できるのではないか」

そう考える方も多いのではないでしょうか。

TAIGA恩送りファンドでも当初は、事業開始前に支援金を一括で決定することを想定していました。

しかし、遺影イラスト事業の実証実験を通じて、最初に全額の支援を確約することが、必ずしも挑戦する方の安心につながるとは限らないことが分かりました。

返済不要の支援金であっても、

「ここまで支援してもらうのだから、必ず起業しなければならない」
「途中でやめたら、期待を裏切ることになる」

というプレッシャーを生む可能性があるからです。

そこで、TAIGA恩送りファンドでは次回の支援から、30万円を「起業準備支援」「事業開始支援」「事業定着支援」の3段階に分け、それぞれ10万円ずつ支援する方法に改めます。

今回は、なぜこのような変更をすることになったのか、実証実験から見えてきた小規模起業の現実と、TAIGA側の反省を含めてお伝えします。

30万円で小規模起業はできるのか

7月27日のコラム「30万円で起業はできるのか?――小規模起業の開業資金の現実と次年度に向けた改善点」では、30万円という金額で小規模起業が可能なのか、実証実験を通じて見えてきたことをご紹介しました。

結論から申し上げると、店舗や大がかりな設備を必要とせず、仕入れの負担が少ない事業であれば、30万円で小さく始めることは可能です。

ただし、実際に取り組んでみると、起業に必要な費用は最初にまとめて発生するのではなく、事業の進み方に応じて段階的に発生することが分かりました。

例えば起業準備の段階では、市場調査、開業に必要な届出、屋号やロゴ、名刺、試作品、必要備品などに費用がかかります。

事業を開始する段階では、ホームページの制作、ドメインやサーバー、業務ツール、資材、チラシなどの販促物が必要になります。

さらに事業を定着させていく段階では、ホームページの改善、広告、写真素材、追加の販促施策など、顧客獲得のための費用が発生します。

必要な資金の内容も金額も、準備を始める前にすべて確定できるわけではありません。

実際に動き、小さく試し、お客様の反応を確認して初めて、「次に何へお金を使うべきか」が見えてきます。

そのため、30万円を最初に一括で確約するよりも、事業の進捗に合わせて10万円ずつ活用する方が、小規模起業には適しているのではないかと考えるようになりました。

起業前の計画どおりに事業が進むとは限らない

今回の実証実験では、準備を進めている途中で、イラスト分野の競合が増えていることが分かりました。

そこで、幅広いイラスト事業として展開するのではなく、これまでの経験や強みを生かしながら、より特徴を明確にするために「メモリアル遺影イラスト」へ焦点を絞る方向に計画を修正しました。

このような方向修正は、決して珍しいことではありません。

起業前に市場や競合を調べ、事業計画を立てても、実際に動き始めなければ分からないことがあります。準備を進めている間にも競合環境は変わり、お客様が求めるものも変化します。

特に中高年・シニアの小規模起業では、最初から大きな売上を目指すのではなく、小さく試しながら、自分の経験や技能が誰のどのような悩みに役立つのかを確かめていくことが大切です。

最初に決めた計画をそのまま守ることよりも、実際の反応を見ながら柔軟に修正することの方が、長く続けられる事業につながる場合があります。

数字上の「低リスク」と、本人が感じる不安は同じではない

今回の遺影イラスト事業は、収支面だけを見れば、比較的小さなリスクで始められる設計でした。

挑戦する方には、別の仕事による安定収入が当面見込まれています。事業の月額固定費は約5,000円で、基本的に商品の仕入れも必要ありません。そのため、月に1件程度の受注でも固定費を賄える可能性があります。

将来的には、TAIGAの会員制度や「温故知新ポータル」を通じて、お客様との接点をつくる仕組みも構想しています。

そのため、支援する側には、

「まずは小さく始めてみればよいのではないか」
「仮にうまくいかなくても、現在の生活に大きな影響はない」
「十分に可能性のある事業ではないか」

という判断がありました。

この判断には、収支上の根拠があります。

しかし、それはあくまでも支援する側から見たリスク基準でした。

挑戦するご本人にとっては、事業にかかる金額が小さいからといって、心理的な負担まで小さくなるとは限りません。

雇用や業務委託という形で働くことと、自分で顧客を獲得し、価格を決め、サービスを提供して、その結果に責任を持つことでは、求められる判断や責任の持ち方が異なります。

収支表の上では「月に1件獲得できれば成り立つ」と考えられても、その最初の1件を自分の力で獲得することに、大きな不安を感じる場合もあります。

さらに、現在の仕事が将来終了した後のことを考えると、ご本人は今回の取り組みを、単なる小さな副業ではなく、「将来の生活を支える事業に育てなければならないもの」と受け止めていたのかもしれません。

支援する側が考えていた「失敗しても現在の生活にはほとんど影響しない小さな実験」と、ご本人が感じていた「将来を左右するかもしれない起業」との間に、ギャップが生じていたのだと思います。

これは、今回の実証実験におけるTAIGA側の大きな反省点です。

返済不要の起業支援でも、プレッシャーは生まれる

TAIGA恩送りファンドは融資ではなく、大前提として返済を必要としない起業支援です。

返済がなければ、挑戦する方の金銭的な負担を軽減できます。しかし、返済不要だからといって、心理的な負担までなくなるとは限りません。

最初に30万円の支援が確約されることで、

「30万円も支援してもらうのだから、後戻りはできない」
「必ず起業という結果を出さなければならない」
「途中でやめれば、支援してくれた人に申し訳ない」

という気持ちが生まれることがあります。

返済不要の支援だからこそ、「期待に応えなければならない」という重さを感じる方もいらっしゃいます。

また、支援する側の「この事業には可能性がある」「何とか形にしてほしい」という思いが強くなるほど、知らないうちに本人を急がせてしまうこともあります。

今回の実証実験では、TAIGA側の期待が先に進み、ご本人が事業を自分のこととして十分に考え、納得して判断するための時間を設けられなかった面があったと考えています。

事業の可能性を伝えて背中を押すことと、本人の気持ちより先に計画を進めることは同じではありません。

その違いを、支援する側が常に意識する必要があります。

起業支援金30万円を「10万円×3回」に分ける

こうした経験を踏まえ、次回のTAIGA恩送りファンドからは、30万円を次の3段階に分けて支援します。

第1段階:起業準備支援の10万円

市場調査、開業に必要な届出、屋号やロゴ、名刺、試作品、必要備品など、事業の土台をつくるために活用します。

この段階では起業を急ぐのではなく、自分の経験や技能を、誰に、どのような形で提供できるのかを整理します。

調べてみた結果、当初の事業案を変更することもあります。準備を進めたうえで「今は起業しない」と判断することも、一つの結論です。

第2段階:事業開始支援の10万円

ホームページ、ドメインやサーバー、業務ツール、資材、チラシなどを整え、小さく販売やサービス提供を始めます。

実際のお客様の反応を確かめながら、価格、サービス内容、申込方法などに無理がないかを検証します。

最初から大きな売上を求めるのではなく、まず1件のお客様に選んでいただくために何が必要かを確認する段階です。

第3段階:事業定着支援の10万円

本人に事業を継続する意思があり、一定の手応えが確認できた段階で、ホームページの改善、広告、写真素材、追加の販促施策などに活用します。

ただし、売上や工程だけで機械的に判断するものではありません。

本人の気持ち、生活や仕事との両立、事業の可能性、必要な改善点を双方で確認し、次の段階へ進むかどうかを一緒に考えます。

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10万円ずつに分ける本当の目的は「考える時間」

30万円を10万円ずつ3回に分けるのは、支援金を小分けに管理することだけが目的ではありません。

それぞれの段階の間に、いったん立ち止まって考える時間を設けることが、本当の目的です。

当初の計画に無理はないか。
本人は本当に続けたいと思っているか。
生活や仕事との両立は可能か。
次に必要なのは資金なのか、それとも情報や時間なのか。

こうした点を一緒に整理し、続ける、修正する、少し休む、いったん終了するという選択肢の中から、本人が納得できる道を考えます。

起業しないという判断も、失敗ではありません。

実際に調べ、準備し、試してみたからこそ、自分に合うかどうかが分かります。そこで得た経験は、その後の働き方や生き方を考えるうえでも、無駄にはならないはずです。

支援金を3回に分けることは、挑戦する方に「心理的な退路」を残すことでもあります。

ただし、それは簡単にあきらめるための退路ではありません。自分の意思を置き去りにせず、納得して次の一歩を選ぶための余白です。

近づき過ぎず、しかし一人にはしない

起業するかどうかを最終的に決めるのは、ご本人です。

現在の仕事を続け、その先に小規模でも自分の事業を持つのか、別の働き方を選ぶのか。その選択は、本人の自由です。

TAIGAができるのは、将来の不安を必要以上にあおることでも、起業という選択を押しつけることでもありません。

これまでの経験や技能を整理し、事業の可能性を一緒に検討し、小さく試すための資金と環境を用意することです。

支援する側が近づき過ぎれば、本人の判断を奪ってしまいます。一方で、資金だけを渡して本人任せにすれば、孤独な挑戦になってしまいます。

近づき過ぎず、しかし一人にはしない。

この適切な距離感が、中高年・シニアの小規模起業を支援するうえで、非常に大切なのではないかと感じています。

実証実験の学びを、次の小規模起業支援へ

今回の実証実験から、事業として成立する可能性と、本人が一歩を踏み出せるかどうかは、別の問題であることを学びました。

収支上はリスクが小さくても、ご本人にとっては人生や将来に関わる大きな挑戦かもしれません。返済不要の起業支援金であっても、受け取ることがプレッシャーになる場合があります。

支援する側に必要なのは、「この事業は成り立つ」という判断だけではありません。ご本人が何を不安に感じ、どのような速度であれば無理なく進めるのかを理解することも必要です。

30万円を10万円ずつ3回に分ける仕組みは、今回の実証実験で得た反省から生まれた改善策です。

TAIGA恩送りファンドは、最初から完成された制度ではありません。実際の挑戦を通じて見えてきた課題を一つひとつ受け止め、次の支援へ反映していきます。

挑戦する方が、自分の意思で考え、小さく試し、必要であれば方向を修正できること。

続ける場合も、立ち止まる場合も、その判断を本人だけに背負わせないこと。

30万円という支援金だけでなく、「考える時間」と「選択できる余白」も一緒にお渡しする。

近づき過ぎず、しかし一人にはしない。

それが、TAIGA恩送りファンドの目指す、返済不要の小規模起業支援です。

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