老後破産は他人ごとではない|50代から備える「想定外の出費」

「年金と貯蓄があれば、定年後は何とか暮らせるだろう」

そう考える方も多いのではないでしょうか。毎月の生活費を計算し、住宅ローンの返済予定を確認する。退職金や貯蓄もある程度見込める。それでも、退職後の家計には、計算に入れていなかった出費が重なることがあります。

親の介護、住まいの補修、雨漏り、実家に残る田畑の処分、墓じまい。どれも遠い将来の話とは限りません。50代のうちに直面することもあれば、退職後に続けて起こることもあります。

60代後半になった私自身、こうした出来事を経験してきました。そこで感じたのは、老後の生活設計には、毎月の収支だけでなく、「想定外を受け止める余白」が必要だということです。

私の経験を振り返りながら、50代から確認しておきたい家計と家族の課題、そして困ったときの相談先をお伝えします。

日本でも進む、破産者の高齢化

韓国で、高齢者の自己破産が増えているという記事を読みました。

朝鮮日報の2026年9月29日の報道によると、2026年上半期の個人破産申請は、2021年の同じ時期より全体では減少した一方、70歳以上では約72%増加したそうです。年金以外の収入が乏しいなか、生活費や医療費、事業の借金などが重なり、暮らしを維持できなくなる高齢者の姿が伝えられていました。

隣国のニュースですが、日本に暮らす私たちにとっても、他人ごとではありません。

日本弁護士連合会の「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」では、調査対象となった破産者のうち、60代が16.71%、70代以上が11.84%。合わせて約3割を占めています。70代以上の割合は、2005年調査の3.05%から上昇しました。

これは、高齢者全体の破産率ではなく、調査対象となった破産者の年齢構成です。日本でも破産者の高齢化が進んでいることがうかがえます。

なお、この記事では「老後破産」を、法律上の自己破産だけでなく、年金や貯蓄では生活を維持することが難しくなる状況も含めて使っています。

私が経験した、計画どおりにいかない出費

私が経験してきたのは、自分たち夫婦の生活費だけでは捉えられない、家族や住まいに関わる支出でした。

自宅の改修費、雨漏り補修。要介護4となった実母の介護。地方に残る田畑の処分と墓じまい。認知症になった義父の介護、そして義母との同居。

それぞれ事情は異なりますが、家族として向き合う必要のあることでした。費用がかかるからといって、簡単に先送りできるものばかりではありません。

住まいの費用も、購入時の支払いや住宅ローンだけでは終わりません。長く暮らせば修繕が必要になり、雨漏りのように予定を待たずに対応しなければならないこともあります。

親の介護についても、「いずれ必要になるかもしれない」とは考えていても、いつ始まり、どれほど続くのかを正確に見通すことは難しいものです。

地方の田畑やお墓も、引き継いだら終わりではありません。誰が管理し、どう整理するのか。実際に取り組む段階になって、手続きや費用、家族間の調整が必要だと実感することがあります。

一つひとつは対応できても、複数の課題が重なると、家計の余裕は変わります。

後の家計を揺さぶるのは、浪費や無理な投資だけとは限りません。家族を支え、住まいを守るための支出が重なることもあります。毎月の生活費だけを見ていると、こうした負担を見落としやすいのです。

介護は、支出だけでなく働く時間にも影響する

想定外の負担は、お金だけではありません。

介護の手続きや通院の付き添い、家族間の相談、離れて暮らす親への対応には、時間も必要です。その分、自分の仕事や活動に使える時間が減る場合があります。

「年金で足りない分は、働いて補おう」

そう考えること自体は自然です。ただし、予定どおり働ける状態が続くとは限りません。親の介護と自分の収入減が重なることもあれば、自分や配偶者の体調が変わる可能性もあります。

だからこそ、退職後の計画では、支出が増える場合と、収入が減る場合の両方を考えておきたいものです。

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公的支援を知り、家族で担う負担も確認する

介護保険などの公的制度は、家族にとって大切な支えです。

例えば、高額介護サービス費には、対象となる介護サービスの自己負担が一定の上限を超えた場合に、超えた分が支給される仕組みがあります。

ただし、食費や居住費などは、この制度の対象に含まれません。一方、介護保険施設等の食費・居住費には、所得や資産などの条件に応じた別の軽減制度もあります。利用できる支援は、市区町村の介護保険窓口で確認しておきたいものです。

詳しくは、厚生労働省の「サービスにかかる利用料」で案内されています。

私自身、行政の支援には助けられる一方、家族が引き受けなければならない部分もあると感じてきました。

住まいの修繕、田畑の処分、墓じまいまで含め、家族が抱える支出のすべてを公的制度で補えるわけではありません。使える支援を確かめることと、自分たちの負担を見込んでおくこと。その両方が必要です。

また、食料品や光熱費などの値上がりで、毎月の生活費も変わります。大きな出費に対応している間も、日々の支払いは続きます。以前作った生活設計を、定期的に見直すことも大切でしょう。

50代から始めたい、老後資金を守る5つの備え

60歳で定年を迎え、90歳まで暮らすと考えれば、退職後は約30年あります。50代は、その長い暮らしに向けて、働き方や支出、家族の課題を見直せる時期です。

すべてを予測する必要はありません。まずは、次の5つから始めてみてはいかがでしょうか。

① 年金で暮らせる範囲を確認する

見込まれる年金額と、税金や社会保険料を差し引いた手取りを確認し、生活費と比べてみます。

毎月どのくらい不足するのか、あるいは余裕があるのか。そこが分かれば、必要な備えも具体的になります。夫婦の場合は、どちらか一人になったときの収入と支出も考えておきたいものです。

② 大きな出費を、毎月の生活費と分けて考える

住宅ローン、住まいの修繕、親の介護、実家や土地、お墓の整理。正確な金額が分からなくても、項目を書き出すだけで確認すべきことが見えてきます。

「起こるかもしれない支出」を別に整理し、そのための資金をどう確保するか考えておくことが大切です。

③ 家族と、役割と費用を話し合う

親の介護を誰が担うのか。費用はどう分担するのか。実家や田畑をどうするのか。

切迫してからでは、落ち着いて話しにくいこともあります。親やきょうだい、配偶者と、元気なうちに少しずつ共有しておきたいものです。一人で抱え込まないためにも、家族の考えを知ることが備えになります。

④ 年金を補う収入を、小さく準備する

短時間の仕事や、経験を生かした小さな事業など、方法は人によって違います。

退職後に慌てて始めるよりも、働いているうちから負担や収入の見込みを確かめておけば、自分に合う形を探しやすくなります。

ただし、多額の借金や老後資金の大きな持ち出しを伴う計画には、慎重な判断が必要です。無理なく続けられる規模から考えたいものです。

⑤ 働けない場合にも、暮らしを守れる形にする

年金以外の収入を準備すると同時に、固定費を見直し、予備資金を残すことも必要です。

家族への援助についても、自分たちが続けられる範囲を話し合っておく。家族を支えるためにも、自分たちの生活を守ることは欠かせません。

備えが十分でなかったと感じる方も、今から一つずつ確認することには意味があります。

不安が小さいうちに、相談先を知っておく

老後の不安は、お金、介護、住まい、仕事が重なり、どこから手を付ければよいか分からなくなることがあります。

そんなときは、課題に合わせて相談先を選ぶと、整理しやすくなります。

返済のために新たな借入れを重ねる前に、相談することが大切です。自己破産を含む法的な手続きも、生活を立て直すための選択肢です。一人で判断せず、専門家と状況を整理してほしいと思います。

まだ生活に困っていなくても、相談先を知っておけば、状況が変わったときに動きやすくなります。相談も、老後への備えの一つです。

これからの暮らしに、選べる余裕を残すために

セカンドライフへの備えは、家族の状況が変わっても自分の暮らしを守り、やりたいことを続けるための準備です。

60代後半になった今、私は、退職後の生活を年金と毎月の生活費だけで考えないことの大切さを感じています。年金を土台にしながら、想定外の出費への余白と、自分に合った働き方を準備する。その積み重ねが、長い第二の人生を支えてくれるのだと思います。

家計に一つ確認を加える。家族と一つ話し合う。将来の働き方を少し試してみる。まずは、できることから始めてみませんか。

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出典・参考資料
・朝鮮日報:「青年破産は30%減る一方、高齢者破産は70%も急増」(2026年9月29日)
・日本弁護士連合会:「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」(PDF)
・金融庁掲載資料:「多重債務問題の構造と解決への第一歩」(資料4に2005年日弁連調査を掲載・PDF)
・厚生労働省:「サービスにかかる利用料」
・厚生労働省:「地域包括ケアシステム」
・厚生労働省:「生活困窮者自立支援制度」
・法テラス:借金の相談案内

執筆:眞辺義明(TAIGA運営)

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