前回のコラムでは、「30万円で始められる小規模起業10選」をご紹介しました。
今回は、TAIGA恩送りファンドが実証実験として支援を行った「遺影イラスト事業」を通じて見えてきた、小規模起業に必要な開業資金の現実と、2027年度へ向けた制度改善についてお伝えします。
私たちは、「返済不要の起業支援制度」の実現を目指し、実際に一人の起業家の立ち上げを支援してきました。
2026年6月、この実証実験は一定の検証結果が得られた段階で一区切りとし、次年度へ向けた制度の見直しを進めることとなりました。
本格稼働までには至りませんでしたが、この半年間で得られた学びは、私たちにとって非常に大きな財産となりました。
そして何より、「起業に本当に必要なものは何か」という答えが、少しずつ見えてきたのです。
30万円でも小規模起業は十分にスタートできる
今回の実証実験で最初に確認できたことは、小規模起業であれば30万円という資金でも十分にスタートラインへ立てる可能性があるということでした。
以前と比べて、起業を取り巻く環境は大きく変化しています。
インターネットの普及に加え、AIを活用した情報収集や文章作成、WordPressとSWELLを利用したホームページ制作などにより、以前であれば数十万円かかっていた準備費用を大幅に抑えられるようになりました。
実際に必要となる主な費用は次のようなものです。
- 独自ドメイン取得:年間 約1,000~3,000円
- レンタルサーバー:月額 約1,000~2,000円
- WordPress:無料
- SWELLテーマ:買い切り 約17,000円~
- 写真素材:無料~月額約2,000円(必要に応じて)
- メール環境・各種クラウドサービス:無料~月額数百円程度
遺影イラスト事業では、高画質データを取り扱うため、ある程度性能の高いパソコンが望ましい環境でした。
しかし、パソコンをすでに所有していることを前提とすれば、新たな設備投資はほとんど必要ありません。
このような費用を試算すると、年間の固定費は概ね7万円以内、月平均では約5,800円で運営できることが分かりました。
さらに、事業計画では受注単価を1件あたり約1万円に設定し、本業と両立しながら運営することを前提に、月に1件受注できれば固定費を十分に賄い、利益が出る収支設計としました。無理なく継続できることを重視した、小規模起業ならではの現実的な事業モデルです。
もちろん、業種によって必要な設備や資金は異なります。
しかし、パソコンとインターネット環境を活用できる小規模起業であれば、30万円という資金は「夢物語」ではなく、「現実的なスタートライン」であることを改めて確認することができました。
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本当の課題は資金ではなかった
一方で、今回の実証実験では、資金以上に大きな課題も見えてきました。
準備期間中は、ホームページ制作やサービス内容の整理、打ち合わせなども順調に進み、事業開始へ向けた準備は着実に進んでいました。
しかし、本格稼働が近づき、「実際にお客様から依頼を受ける」という場面を具体的にイメージしたとき、状況が少しずつ変化していきました。
会社員であれば、与えられた仕事を責任を持って遂行することが中心です。
一方、起業では自ら顧客開拓をし仕事を受注するところから始まります。
問い合わせへの対応、見積書や請求書の作成、スケジュール管理、顧客とのやり取り、品質管理、そして顧客開拓まで、すべてを自分自身で考え、判断し、行動しなければなりません。
これまで経験したことのない役割を一度に担うことへの不安は、決して珍しいものではありません。
今回の実証実験でも、本格稼働へ移行するタイミングで、一度立ち止まり、今後の進め方を見直す判断となりました。
運営側としては、当初「資金面の課題を解決できれば、起業への最大のハードルは越えられるのではないか」と考えていました。
しかし、この半年間を通じて得られた答えは違いました。
本当に大切なのは、資金だけではありません。
起業を「自分事」として捉え、一歩ずつ前へ進める環境づくりこそが、継続的な事業運営には欠かせないことを学びました。
この気づきは、今回の実証実験で得られた最も大きな成果だったと考えています。
2027年度へ向けて制度をさらに改善します
今回の検証結果を踏まえ、TAIGA恩送りファンドでは2027年度に向けて制度内容の改善を進めています。
① 支援金を段階的に支給する仕組みへ
これまで検討していた30万円の一括支給ではなく、
- 採択時に10万円
- 起業準備が整った段階で10万円
- 本格稼働前に10万円
というように、進捗を確認しながら段階的に支援する仕組みを検討しています。
資金を提供するだけではなく、一歩ずつ着実に前へ進むための伴走支援を目指します。
② 顧客開拓まで支援する仕組みづくり
どれほど良い商品やサービスでも、お客様に知っていただけなければ仕事にはつながりません。
そのため、TAIGA恩送りファンドのホームページ内に支援先の紹介ページを設け、それぞれのホームページと相互リンクすることで、認知度向上や顧客開拓につながる仕組みづくりを検討しています。
「起業した後」まで見据えた支援を行うことが、今後の重要な役割だと考えています。
③ 会員制度によるコミュニティづくり
起業は最終的には自分自身で決断し、行動するものです。
しかし、一人で悩み続ける必要はありません。
会員同士のオンラインミーティングや交流会、情報交換の機会を設けることで、経験や課題を共有し、お互いに励まし合いながら成長できるコミュニティづくりを進めていきたいと考えています。
実証実験は、次の挑戦への第一歩
今回の実証実験は、本格稼働には至りませんでした。
しかし、それは決して「失敗」ではありません。
実際に支援を行ったからこそ、「資金だけでは起業は成功しない」という現実を確認することができました。
そして、どのような支援制度であれば、より実践的に起業家を支えられるのかという課題も明確になりました。
このような学びは、机上の検討だけでは得られない貴重な成果だったと考えています。
2026年8月から12月にかけては、今回の実証実験で得られた結果を改めてレビューし、課題や改善策を整理・共有しながら、2027年度へ向けた制度設計をさらにブラッシュアップしていく予定です。
TAIGA恩送りファンドは、これからも実証と改善を積み重ねながら、「小さく始めて、着実に育てる起業」を応援する仕組みづくりに取り組んでまいります。
なお、2027年度のTAIGA恩送りファンドの公募内容や募集状況については、年内のコラムで順次お知らせする予定です。
小規模起業に挑戦したいと考えている皆さまにとって、少しでも現実的で安心して一歩を踏み出せる支援制度となるよう、今後も改善を続けてまいります。
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